小売業の広告配信「リテールメディア」とは?始め方やメリット、注意点、成功事例などを解説

小売業において、広告運用に悩むこともあるでしょう。従来のマス広告だけでは、効果が見えづらく、投資対効果に不安を感じている場合もあります。
そんな悩みを解決する手法として、「リテールメディア」が注目を集めています。本記事では、リテールメディアの概要から始め方、成功事例まで解説します。小売業の広告運用を検討している場合は、ぜひ参考にしてください。
目次
小売業の広告運用の現状
小売業の広告運用は、大きな転換期を迎えています。従来のマス広告から、デジタル広告へのシフトが加速しているのです。特に注目を集めているのが「リテールメディア」です。
リテールメディアとは、小売業者が自社の顧客データを活用して提供する広告サービスのこと。ECサイトやアプリ、店舗内のデジタルサイネージなどが主な媒体となります。
この市場は急成長しており、日本では2021年に90億円だった市場規模が、2026年には805億円まで拡大すると予測されています。
しかし、課題も山積みです。最大の問題は、日本のEC化率の低さです。海外に比べてまだまだ遅れをとっているのが現状です。また、広告効果の検証も難しく、広告主からの信頼獲得に苦戦しています。
さらに、小売業者側の体制整備も課題です。広告事業は本業ではないため、専門知識やノウハウの不足が目立ちます。
小売業の広告配信「リテールメディア」とは
リテールメディアは、小売業者が自社の顧客データを活用して広告サービスを提供する新しいビジネスモデルです。
具体的には、ECサイトやアプリ、実店舗のデジタルサイネージなどを通じて広告を配信します。小売業者は豊富な顧客データを持っているため、ターゲティングの精度が高いのが特徴です。
リテールメディアの魅力
リテールメディアの魅力は、三方よしの関係を築ける点にあります。小売業者は新たな収益源を得られ、広告主は効果的な広告配信が可能になり、消費者は関心のある情報を受け取れます。
特に注目すべきは、オンラインとオフラインのデータを統合できる点です。実店舗での購買行動とECサイトでの閲覧履歴を組み合わせることで、より精緻な顧客理解が可能になります。
ただし、プライバシーへの配慮は欠かせません。個人情報の取り扱いには細心の注意を払う必要があります。
小売業に向いている広告の種類
小売業には、さまざまな広告手法が適していますが、それぞれに特徴があります。ここでは、小売業に特に効果的な7つの広告タイプを詳しく解説します。
リスティング広告
リスティング広告は、検索エンジンで特定のキーワードを入力したユーザーに広告を表示するため、購買意欲の高い顧客にアプローチできます。
たとえば「夏物セール」と検索した人に、自社の夏物商品の広告が可能です。即効性が高く、費用対効果も測定しやすいのが特徴です。
ただし、競合他社との競争が激しいキーワードもあるため、入札戦略には注意が必要です。また、商品名や地域名など、具体的なキーワードを使うと効果的でしょう。
ディスプレイ広告(リマーケティング広告)
ディスプレイ広告は、一度自社サイトを訪れたユーザーに対して、他のウェブサイトで広告を表示する形式です。
たとえば、商品ページを見たものの購入に至らなかった顧客に、再度その商品の広告を表示できます。購買を促す絶好のチャンス。忘れかけていた商品を思い出させ、購入を後押しします。
ただし、頻繁すぎる広告表示はユーザーの反感を買う可能性があります。適切な頻度設定が重要です。
Googleショッピング広告
Googleショッピング広告は、商品画像と価格を含む広告を表示できる点が特徴です。視覚的にアピールでき、価格比較も容易なため、ユーザーの購買意欲を高めます。
特に衣料品や家電など、見た目や価格が重要な商品カテゴリーで効果を発揮します。商品データフィードの最適化がポイントとなるので、正確で魅力的な商品情報を提供しましょう。
アフィリエイト広告
アフィリエイト広告は、他のウェブサイトやブロガーを通じて自社商品を宣伝する手法です。成果報酬型なので、実際に売上が発生しない限り広告費用は発生しません。
信頼できるインフルエンサーやブロガーとの提携は、ブランドイメージの向上にもつながります。ただし、適切なパートナー選びが成功のポイントですので、自社ブランドに合ったパートナーを慎重に選びましょう。
SNS広告
SNS広告は、若年層を中心に幅広い層にリーチできる手法です。FacebookやInstagramなどのプラットフォームを活用し、ターゲットを絞った広告配信が可能です。
また、視覚的に魅力的な商品やトレンド商品の宣伝に特に効果的です。ユーザーの興味関心に基づいた広告配信ができるため、高い効果が期待できます。
ただし、各SNSの特性を理解し、それぞれに適した広告クリエイティブを用意する必要があります。
記事広告
記事広告は、通常の記事の形式を取りながら商品やサービスを紹介する広告手法です。読者に有益な情報を提供しつつ、自然な形で商品をアピールできます。
たとえば、季節の着こなし特集の中で自社の衣料品を紹介するなど、コンテキストに沿った形で商品をアピールできます。ただし、広告色が強すぎると逆効果。情報価値の高い記事作りを心がけましょう。
メルマガ広告
メルマガ広告は、既存顧客とのコミュニケーションツールとして有効です。新商品情報やセール情報を直接顧客に届けられます。
ユーザーそれぞれに合わせたおすすめ商品の紹介など、顧客一人一人に合わせたコンテンツを提供できるのが強みです。ただし、配信頻度や内容には注意が必要です。顧客にとって価値ある情報を適切なタイミングで届けることがポイントになります。
小売業が広告を出した場合の効果
小売業が広告を出すことで、多くの効果が期待できます。メーカー、消費者、小売業者の三者それぞれにどのような利点があるのか、見ていきましょう。
メーカーやブランド(広告主)のメリット
メーカーやブランドにとって、小売業の広告は情報収集などに役立ちます。まず、ターゲティングの精度が格段に向上します。小売業者が持つ詳細な購買データを活用できるため、より適切な顧客層に広告を届けられるでしょう。
また、購買行動に直結しやすいのも大きな魅力です。広告から実際の購入までの導線が短く、効果測定も容易になります。さらに、小売業者との関係強化にもつながり、棚割りの改善や共同プロモーションなど、新たな協力体制を築くきっかけにもなるでしょう。
消費者のメリット
消費者にとっても、小売業の広告は有益です。たとえば、関心のある商品情報を効率的に得られます。購買履歴や閲覧履歴に基づいた広告が表示されるため、不要な情報に煩わされる心配が少なくなります。
また、お得な情報も手に入りやすくなります。セール情報やクーポンなど、タイムリーな特典情報を受け取れる可能性が高まります。さらに、新商品の情報もいち早くキャッチできるため、トレンドに敏感な消費者には特に魅力的でしょう。
小売業者のメリット
小売業者にとって、広告事業への参入は新たな収益源の確保が可能です。従来の商品販売だけでなく、広告収入という安定した収益を得られるようになります。
また、自社メディアの価値向上にもつながり、質の高い広告コンテンツを提供することで、顧客の滞在時間が延び、ロイヤリティも高まる可能性があります。
さらに、データ活用のノウハウが蓄積されるのも大きなメリットです。広告運用を通じて得られる知見は、自社の販促活動にも活かせます。顧客理解が深まり、より効果的なマーケティング戦略の立案が可能になるでしょう。
リテールメディアの始め方
ここでは、リテールメディアを始める際の5つの重要なステップを詳しく解説します。
顧客分析
まず最初に取り組むべきは、徹底的な顧客分析です。保有する顧客データを細かく分析し、購買パターンや嗜好を把握します。たとえば、年齢層別の人気商品や、時間帯ごとの購買傾向などを洗い出してください。
この段階で重要なのは、単なる数字の羅列ではなく、顧客の「なぜ」を理解することです。「なぜその商品を選んだのか」「なぜその時間に購入したのか」など、背景まで考察できれば、より効果的な広告戦略が立てられます。
ターゲットに向けて広告配信
顧客分析の結果を基に、ターゲットを絞った広告配信を行います。ここでのポイントは、「適切な人に、適切なタイミングで、適切なメッセージを」届けることです。
たとえば、週末に食材をまとめ買いする傾向がある顧客には、金曜日の夕方にレシピ付きの食材セットの広告を配信するなど、細やかな戦略を立てます。また、オンラインとオフラインのデータを統合し、シームレスな顧客体験を提供することもポイントです。
インストアプロモーションを行う
リテールメディアの強みは、オンラインとオフラインの融合にあります。店舗内でのプロモーションも積極的に活用しましょう。デジタルサイネージやスマートフォンアプリと連動したキャンペーンなどが効果的です。
たとえば、店舗内の特定の場所でスマートフォンをかざすと、その場所に関連した商品の割引クーポンが表示されるなど、楽しさと実用性を兼ね備えたプロモーションを企画します。これにより、顧客の購買意欲を高めつつ、貴重なデータも収集できます。
効果測定
広告配信後は、その効果を正確に測定することが大切です。単純な売上増加だけでなく、顧客の行動変化や満足度なども含めて多角的に分析してください。
具体的には、広告クリック率、購買率、リピート率、顧客満足度調査の結果など、さまざまな指標を組み合わせて評価します。また、オンラインとオフラインの両方のデータを統合して分析することで、より正確な効果測定が可能になります。
改善策の立案と実行
効果測定の結果を基に、次のアクションを考えます。うまくいった施策はさらに強化し、期待通りの結果が得られなかった部分は原因を分析して改善策を立てます。
たとえば、特定の商品カテゴリーで広告効果が低かった場合、その原因を探ります。商品の「魅力が伝わっていないのか」「ターゲティングが適切でなかったのか」それとも「価格設定に問題があったのか」など、こうした分析を通じて、次の一手を考えてください。
リテールメディアの成功事例
ここからは、リテールメディアの成功例をご紹介します。それぞれの特徴や工夫を確認し、自社の施策に活かしましょう。
Walmart
アメリカの小売大手Walmartは、リテールメディアの先駆者と言えます。同社の戦略は、自社のECサイト、アプリ、そして実店舗を統合的に活用するものです。特筆すべきは、約5,000店舗に設置された17万台のデジタルサイネージです。
これらのサイネージを通じて、Walmartは顧客データを巧みに活用し、時間帯や地域に応じたブランドメッセージを配信しています。この取り組みの成果は目覚ましく、2022年の広告収入は前年比40%増の27億ドルに達しました。
Amazon
EC大手のAmazonも、リテールメディアで大きな成功を収めています。同社の強みは、膨大な顧客データと高度なアルゴリズムを駆使した広告配信にあります。
Amazonの検索結果ページに表示されるスポンサー商品や関連商品の広告は、ユーザーの興味関心に高度にマッチしています。そのため、広告とは気づかれずにクリックされる確率が高く、効果的な販促につながっています。
2023年第4四半期の広告サービス事業の売上高は116億ドルに達し、前年同期比19%増を記録しました。この成長は、Amazonのリテールメディア戦略の成功を如実に物語っています。
ファミリーマート
日本でのリテールメディア成功事例として、ファミリーマートの取り組みが注目されます。同社は全国約3,000店舗のレジ上にデジタルサイネージを設置し、地域に応じた広告配信を行っています。
特に興味深いのは、コンビニの特性を活かした戦略です。消費者がメディアに触れる機会が比較的少ない昼間の時間帯に、デジタルサイネージを通じて効果的な広告露出を実現しています。
実際、デジタルサイネージを見た可能性が高い顧客の購買行動を分析したところ、広告が購買に明確な影響を与えていることが確認されました。
まとめ
リテールメディアは、顧客データを活用した精緻なターゲティング、オンラインとオフラインの融合、新たな収益源の確保など、メリットが多岐にわたります。
しかし、成果をあげるには顧客分析、適切な広告配信、効果測定、そして継続的な改善が求められます。
一歩ずつ着実に施策を進めて、自社のリテールメディアの運用を成功させましょう。
デジタルトレンズへお気軽にご相談下さい。